プロローグ3: 廊下でむせび泣いた尾瀬さん
「尾瀬さんも被害にあったらしいよ。廊下でさ、我慢出来ずに涙をこぼしたんだって」
尾瀬さんというのは、なかなかにナイスな殿方ですの。
今は隣の係で元気に明るく働いておりますし、わたくし達ともとてもフレンドリーに接してくださるさわやかガイですわ。
「すみれさんが仕事に復帰する前のことなんだけれどね。たまたま見ちゃったの、尾瀬さん、廊下でなんか身体を震わせて思わずホロリって涙をこぼしちゃったの」
アルバイトのサカキさんが声を潜めてモラハールこと、直属の課長の暴虐を教えてくれましたの。
えっ、あの尾瀬さんが?
別に差別的とかいうつもりはありませんが、この仕事場で男が泣くとなると、それはよっぽどですわ。
何があったかわかりません。
男の涙のワケを聞くなんてレディとしてはいまはまだ無粋に感じますから。
しかし、わたくし達は感じましたの。
彼もモラハラの被害を受けて心が深く傷つくことがあったのですわ。
そう、彼女はこうやっていつもターゲットを決めてモラハラという愚行をナチュラルに繰り返しているに違いないのですわ。
あとで紹介いたしますが、とある本に「モラハラ加害者の通ったあとには累々と死体の山が転がる」と書いてあったのはこのことですわね。
まったく、許せませんわ。