プロローグ0: モラハラってなんですの?
野々花「それってモラハラじゃない?」
2016年の春が過ぎ去る頃。
大阪の鳥貴族っていう居酒屋で、友人の野々花がいいましたの。
すみれ「モラハラ?」
わたくしの頭の中にはなかった言葉。
でも、なんとなく「セクハラ」「パワハラ」「マタハラ」っぽい、いわゆるハラスメントの仲間であることは……わかりましたわ。
わたくしより先に声を上げたのは向かいの席のさつきちゃんでした。
野々花「いつかあったじゃん。高橋ジョージと三船美佳の、あれあれ……」
さつき「あー、なんかDV夫っぽいやつ?」
思わず「はっ?」と喉から声があふれましたわ。
だって、わたくしの愚痴は「会社でパワハラ未満の生あたたかいイジメみたいなのを受けている」ってことでしたから。
さつき「でも、すみれのやつって会社のだよね。なんかちがくない?」
リスみたいな彼女は、お目目をくりくりして背を伸ばして聞き返してたんですわ。
もちろん、わたくしも全く同じことを聞こうとおもってましたから、野々花に視線を手向けましたの。
野々花「この頃さ。パワハラとかセクハラとか、うるさくなったじゃん。だから、越えないようにやってくるわけ。つまり、新型パワハラ……的な?」
ざわめく居酒屋の中。よく通るひそひそ声がわたくしの身体に届きました。
でも、全く理解出来ませんでしたわ。
すみれ「モラハラって、何の略ですの?」
野々花「モラル・ハラスメントの略だよ」
正式名称を聞いても、やっぱり理解出来ませんでしたわ。
ちょうど「コンプライアンス」って言葉にはじめて触れた時のような、そんな気持ちになりましたわ。
あわててiPhoneに指をすべらせ、Wikipediaで検索して、記事に目を通したとき、わたくしはもやもやしていたグレイな者の正体に気づきましたの。
野々花「ねっ。言ったとおりでしょ?」
この日のこと。
うっぷんばらしに新幹線でやってきた大阪のこと。
久しぶりに気の置けない友人達に会えて、大変感謝しておりますわ。
モラハラってなんですの?
わたくしが受け止めた実体験を通して、モラハラという「なまぬるいパワハラ」の実体を知っていたければ幸いです。
2016年夏 ノバラスミレ